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2008年3月 9日 (日)

「実測!ニッポンの地域力」(藻谷浩介著)のすすめ

日本政策投資銀行参事役で、日本中の地域をくまなく歩いて地域づくりの講演にかけまわる藻谷浩介さんの「実測!ニッポンの地域力」(日本経済新聞社発行)を読んだ。

ノンフィクション作家の佐野真氏が「忘れられた日本」を書いた民俗学者になぞらえて、「平成の宮本常一」と呼ぶ藻谷さんらしい、具体的なデータを積み重ねて地域づくりにまつわる常識に疑いを投げかける一冊だ。

高速交通網の整備と工業振興が、近年の日本ではかならずしも地域経済に活性化をもたらしていないことを、人口の増減や小売の販売額といったデータを駆使して説明している。

「西三河地区 更地が激増する日本一豊かな工業地帯」「沖縄県 全国唯一、就業者数も小売販売額も増加」「奈良県 落日迫るベッドタウン」「山口県 縮小の止まらない交通至便な「日本一の工業県」」といった目次を読むだけで、刺激的な内容が想像できるだろう。

山口県は高知県から比べると、ずいぶんと基盤整備の面では優れていると思えるが、いくら工業が好調でも雇用数では高度経済成長期に就職した世代が退職する数を埋めるほどの規模を望めないなか、県民の消費が福岡、北九州、広島といった近隣の100万人規模の町に高速交通網にのって流れているとして、国の研究所の推計では2020年には秋田、島根、高知を抜いて全国で一番に70歳以上の比率が高い県になるという予測を紹介している。

「実態としての雇用吸収力を失った工業の振興が、いまだに地域の人口増加のカギと信じる向きの時代錯誤には、憤りを覚えざるをえない」というのが、山口県が出身地であるも谷さんの指摘だ。

ちなみに、わが高知県は「過疎県に人口を流入させた地理的条件」という表題で5ページにわたって出ている。

高知県は地理的な隔絶、最下位を争う人口当たりの工業出荷額、高い高齢化率と失業率という悪条件にもかかわらず、90年代後半には首都圏や愛知県を上回る社会増加の人口流入超過が起きていたということを、自然減の勢いが強いので人口を回復させるほどではなかったものの、中国四国では高知県だけだったと書かれている。

団塊ジュニアや昭和10年代生まれのUターンが若者の流出をうわまわったとの分析で、実際、僕が高知県に帰ってきたのは99年春だった。

ただ、一方で高知県の就業者数は90年代後半では増えていないものの、その当時はサービス業で伸びていたことがほかの過疎県に勝ったことにつながっていて、「日本全国が人口自然減少に転じていく今後、高齢化先進県・高知の奮闘に学ぶべきものは大きい」と結んでいる。

もっとも、ここ数年は人口の社会減に再び高知県はなってきているので、その時期の統計を加えた分析を、また聞いてみたい、僕も考えてみたいとは思うものの、都市だから発展をして地方だから衰退しているという一律的な見方を否定する筆者の見方はうなずけるものが多い。

年間400回の講演で、そのつど最新データを更新しながら全国をまわっているという藻谷さんの話は、数年前に高知の商店街関係者の誘いで聞いたことがある。

マスコミに出てくる話を鵜呑みにしたあいまいな印象論ではなく、データを駆使して実態から地域づくりの個別努力を応援していくことを語る姿に、すごい人がいるなあと共感を覚えたものだ。

それ以来、人づてや報道で藻谷さんの近況を知ることはあったが、会うことはないままだ。

この一冊を多くの地域づくりに関心を持つ人、地方はだめだと思い込んでいる人にすすめるとともに、近いうちに藻谷さんの話を聞く機会が作れればなあと思っている。

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